讃岐舎(さぬきのいえ) コンセプト |
構造架構(柱・梁)を表しにする「木の家」に取り組み始めて数年が経過しましたが、今思うことはまだまだこのような家は特殊なものであって「一般解」にはなり得ていないということです。私たちはこのような「自然な家」の存在をもっと一般の方々に知って欲しいし、もっともっとこのような家が、街に増えて欲しいと願っています。「木の家」が家を建てる人にとっての「一般解」になるにはどうすればよいのか。そんな想いが「讃岐舎」には込められています。
「讃岐舎」を企画するに当たって考えたことを、断片的に思いつくままに書いてみました。 |
T 讃岐の風土(風景)に溶け込んだものであること |
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越屋根:讃岐の田園風景の中にある昔ながらの讃岐の農家には、写真のような「越屋根(こしやね)」のある小屋をよく見かけます。これは煙草の乾燥小屋として昔使われたものです。「煙草乾燥小屋」は讃岐平野の各地に今でも点在しており、「ため池」や「おむすび山」とともに讃岐の風景を形成しています。これらの小屋は「ベーハ小屋」とも呼ばれ讃岐の原風景を作り出す一つの要素としての役割をも果たしています。
> 讃岐のベーハ小屋
讃岐舎では、このかたちを現代に蘇らせてみようと思いました。たった一つの小さな家が街に働きかける影響力を大切にしたいと考えました。家は好むと好まざるに関わらず風景を形成する一つのファクターとして存在するからです・・・。讃岐舎では単なる外観上のデザインとしてだけではなく、風を通し、光を取り入れる機能的な装置として越屋根を考えました。
夏の夜、エアコンなしで寝苦しくない環境をつくりたい・・・そう思います。
屋根:屋根はやはり日本瓦でしょう。ヨ−ロッパの田舎町ではその土地の土を使った瓦屋根や石の屋根で全ての家屋が統一されている風景に出会います。街並みとしての調和があり美しいものです。日本の街も、もし全ての家屋が日本瓦で統一されていたら、それだけで今とは比べものにならない美しい街並になることでしょう。
♪♪甍(いらか)の波と雲の波 重なる波の中空(なかぞら)を
橘(たちばな)かおる朝風に 高く泳ぐや鯉のぼり♪♪
童謡や唱歌には、日本の原風景が多くうたわれています。後世に残していきたいものです。
外壁:讃岐に伝統的に多い外壁は漆喰か焼杉でしょうか。外壁は風雨から家を守る大切な部分です。ここにはしっかりお金をかけたいですね。できれば無機質な素材ではなく、できるだけ自然に溶け込む天然素材で構成したいものです。
この3つの要素だけでも讃岐の風土を感じさせるものに近づいたような気がしませんか。
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U 「木の家」(柱や梁を見せる)であること |
内部の柱・梁などの構造体はそのまま見せる構造とします。構造体がそのまま見えるのは日本建築の伝統的な美しさの特徴です。柱や梁が作り出す「線の美しさ」は日本的な潔さを表現する構造美だといえます。
また、木が空気にさらされていることで木は呼吸をし、室内空気を調湿してくれますし、木材自体の耐久性も向上します。
木の材種は四国の「杉」か「桧」。大黒柱には香川県仲南地区(まんのう町)の檜(ひのき)を使用することも出来ます。 > 大黒柱伐採ツアー
香川県産材の「桧(ひのき)」を今後積極的に使用することも考えています。
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讃岐舎内観 |
V 断熱性能にはこだわりたい |
環境負荷低減のためにも、断熱性能は重視したいと思います。「次世代省エネ基準」レベルに近いもので考えました。特に讃岐の暑い夏対策にも屋根断熱は重要です。
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W 風を感じる家 |
春のさわやかな風、夏の木陰を通り過ぎる風、秋の気配を感じる風・・経験ありますよね。でも、今風を感じる一瞬ってありますか?車での移動、エアコンの効いた部屋で一日中過ごしているとそんな触感が鈍ってしまいますね。「讃岐舎」は「風を感じる家」でありたいと思います。
香川の夏は海からの風が吹きます。西讃は西からも吹きます。夏の風を住宅に取り入れる工夫を徹底的にやってみます。でもそれって特別難しいことではないんです。南北に風の通り道のあるプラン、意識的にそうすることでかなり違います。少し犠牲にするところがあるかも知れません。でも間取りにパ−フェクトはありません。どこに重きを置くか、その連続が「間取り」だと思います。「風」を少し意識して「風の通り道」を大切にしてみませんか。「日本の夏」を楽しめると思います。
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X コストパフォ−マンスとプランニング |
なんといっても価格は大切です。「木の家」は良いが予算が合わず、断念せざるを得ないといったことはありがちな話です。20代、30代の普通の御夫婦が建てられる価格帯にチャレンジしてみたいと思っています。コストパフォ−マンスも踏まえて以下のようなことを考えました。
1.プラン(間取り)は自分自身でつくる。 通常、「家づくり」の進め方は、まず設計者と住まい手が打ち合わせを繰り返し理想のプランをつくります。プランや外観がまとまれば、それから実施設計図を作成します。実施設計図は、通常、「仕上げ表」「仕様書」「平面図」「立面図」「矩形図」「建具表」「展開図」「各種詳細図」「基礎伏図」「架構構造図」「電気図各種」「給排水図各種」「換気設備各種」など・・数十枚に及びます。設計図ができれば、次に設計図に基づいて積算をします。積算は大変な設計情報量から一つ一つ拾い出して行います。こうしてはじめて建物の価格が正式に提出されます。この時点で希望予算に合わない場合は、設計変更など図面の後戻りが発生したり、再度修正見積もりを行ったりしなければなりません。一つ一つをその家に合わせて決定していくのは結構たいへんな作業です。一つの住宅でもこうして決めていかなければならないことは、コンセント一つから始まって膨大な量になります。 私たちも一般的にはこうした方法で「家づくり」を進めています。住まい手と一つ一つ話をしながら決めていくわけですから、自分の理想の家を建てるにはこのやり方が理想的な方法だと思います。私たちも今後ともこのやり方は継続していくつもりです。
しかし、「讃岐舎」では高いコストパフォ−マンスを実現するために、この方法を根本的に転換してみようと思っています。設計・積算に要する時間は様々ですが、先ほど申しましたようにかなりの時間すなわち費用がかかります。設計料として目に見えてくる場合とそうでない場合がありますが、いずれにせよ実際にはかかってくる費用です。これをかぎりなくゼロに近づけようと思っています。そのために住まい手が自身で間取りを作れるシステムを作ろうと思います。ここで重要なことは、素人がつくった間取りでも構造強度やデザイン等の品質レベルは一定基準以上をキ−プできるようなル−ルが必要だと言うことです。このル−ルが「讃岐舎」において最も大切なことになります。
2.プランのル−ル
・総2階(長方形)プランであること
複雑な間取りが良い間取りとは限りません。ともすれば変形した間取り、変化のある外観がカッコイイと思いがちですが、ここで重要なことは同じ床面積でも形が複雑になれば価格(坪単価)はかなり上がると言うことです。同じ仕様(グレ−ド)でも床面積(坪数)で価格が決まるわけではないのです。形状によって外壁や内壁の面積は変わりますし、平屋と2階部分では床面積当たりの基礎面積・屋根面積が平屋の方が2倍になりますよね。
「讃岐舎」では長方形の総2階にプラン形状を限定することで大幅なコストパフォ−マンスを実現できます。そして、それは耐震性能の向上にもつながります。それでは外観に変化がなくて安っぽいものになるのでは、との心配があるかも知れません。シンプルな洒落たデザイン(なおかつ讃岐の風土を感じさせるもの)が讃岐舎の持ち味です。
長方形総2階の外周ラインの中の間取りはまったくのフリ−プランが可能です。
・オ−プンプランであること 個室の集合体が家になるようなプランは避けたいと思います。そこには生活のイメ−ジが沸いてきません。よく言われるように子どもの非行や家族崩壊にもつながりかねない家になってしまいます。
「讃岐舎」は家族生活がイメ−ジできるような団欒スペ−スを中心にしたできるだけオ−プンなプランづくりを提案します。個室で区切らずに空間が連続したものが良いですね。引き戸、襖、障子等の軽い仕切、場合によってはその仕切さえもほんとに必要なのかまで考えてみたいと思います。そのためにも前述の断熱性能は欠かせません。建物全体の冷暖房がこれからの住宅には基本だと思います。
構造壁と非構造壁を明確に分けたプランにすることも大切です。そうすることで非構造壁はいつでも撤去でき、撤去した状態でかなりオ−プンな空間をつくることができます。将来ライフスタイルが変わったときに対応できる間取りであることはとても大切なことだと思っています。実はこのことが、構造的な耐久性以上に家の耐久性を決定づける重要な要素でもあるのです。こうしたプランを作ることで、改修しながら「長く住み続けられる家」を実現できると思います。
・できるだけ収納が少ないこと
などというと奥さまから大反対をもらいそうですね。「収納スペ−スをできるだけたくさん取ってください」という要望を、たいていの場合お聞きします。でも固定された収納(押入や造りつけ家具など)は空間を占領しますので広がりの演出を妨げますし、将来の間仕切り変更にも対応しづらくなります。しかも、価格も既製品家具よりもたいてい高くつきます。収納はもちろん必要ですが可変性のあるお洒落な既成家具を模様替えをしながら使うのはどうでしょう。空間がずっと豊かになりますよ。
もうひとつ讃岐舎では床面積とは別に大きなロフト空間がとれます。この空間を収納スペースとして有効利用することでオープンなライフスタイルを実現できると思います。
3.一般的な工期(サイクル)で建つ家
伝統工法に近い「木の家」ですが、「讃岐舎」は通常のサイクルで家ができるような流れにしたいと思います。むしろ、設計期間がかなり短縮される分、通常よりも短いサイクルで建築可能だと思います。工事期間は5〜6ヶ月が目安です。伝統工法の家を通常の流れでやると木材の乾燥期間(天然乾燥)を含めかなりの期間が必要です。「讃岐舎」ではこのホ−ムペ−ジでも紹介してます高温乾燥機を使って人工乾燥させることや、要所に独特の金物を使用することなどで工期を短縮することが可能となりました。
4.メリハリのある家づくり
家はお金をかけだすときりがありません。特に最近の住設機器(システムキッチン、ユニットバス、化粧台、便器、照明器具等々)は、その種類の多さや機能の充実?には我々専門家でもついていけません。住設機器に凝り出すといくらでもお金がかかります。でも高価なシステムキッチンを設置すれば良い家になるでしょうか?住設機器や仕上げ材料のグレ−ドと家の基本的な品質とは全く別のものですよね。私たちは家の基本的な性能にはきっちりとお金をかけ、それ以外のところは決して高価でなく機能的でシンプルで使いやすく、木の家に似つかわしいものを選定したいと思っています。お金をかけるところとサラッと流すところ、メリハリのある家づくりが「讃岐舎」です。
5.「小さな家」がいい
日本の家屋は、長年「ウサギ小屋」コンプレックスに悩まされ続けました。豊かになった日本が、唯一先進国に遅れているのは住環境の悪さだと・・。日本の家は「ウサギ小屋」のように狭くて、その狭さが貧しい住生活を我々に強いていると言われました。私たちはそれを信じてやみくもに家の広さを追求してきたのかも知れません。その結果はどうでしょう。今、日本の住居の平均面積はアメリカよりは小さいですが、ヨ−ロッパ各国よりは広くなってしまったのです。それでは日本の住宅はヨ−ロッパに追いついたのでしょうか、それとも追い越したのでしょうか。答えはおわかりですよね。そう、日本の住宅文化は規模(広さ)を追いかけ始めたときから悪化の一途をたどっているんです。個室化による家族の崩壊、エアコンの普及が季節感を喪失させ、大量生産という名目が生んだ薄っぺらな材料、そしてそれらがもたらしたシックハウス症候群、・・・。
国際的という名の下の間違った西洋化。ヨ−ロッパの「家」は日本よりも遙かに家族の団らんができる「家」です。今、私たちがヨ−ロッパから学ぶことは、形式的なスタイルではなく、自分達の文化に誇りを持つこと、自分達の国を理解することではないでしょうか。「日本人が日本を知ること。国際交流もそこから始まります。」どこかのTVCMにありましたが、ほんとうにそう思います。
今、私たちはほんとうの豊かさを真剣に考えなければならないのではないでしょうか?大きな家に住むことで他人の羨望を買うことが豊かさではありません。広さに豊かさを求める時代ではありません。小さくて質の良い家に住む。そんな時代になりつつあります・・
「小さな家」でいいんです。いや、「小さな家」がいいんです。でもそれは本物の家でなければなりません。豊かな空間を内包した本物の「小さな家」をつくりましょう。
小さな家がいい 何故って? それはね なによりもまず 家は家族のものだから・・・ 家は 身の丈のもの。 家族がリラックスできる気安さ これ見よがしに構えないで 生活の器としての 小さな家。 そんな家がいい。
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Yその他のキ−ワ−ド(讃岐舎にこめた想い) |
・装飾性をできるだけ排除すること ・素材をできるだけそのまま正直に使うこと ・住み込むほどに味わいが深まり、年月を経るごとに魅力が増すような家であること
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