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讃岐のベーハ小屋 |
ベーハ小屋とは |
香川県 讃岐平野には、写真のような越屋根(こしやね)を持つ小屋が今も数多く点在しています。この小屋は煙草の乾燥小屋で昭和20年代〜30年代に建てられたもののようです。
「煙草乾燥小屋」は香川県特有のものではなく、煙草栽培が栄えた時期に全国的に建てられたもののようですが、香川県ほど多く残っている地域は他にないらしく全国的にも稀少な地域のようです。
葉煙草の種類は大きく分けて1.黄色種(おうしょくしゅ) 2.在来種 3.オリエント種の3種類あり、在来種とオリエント種の葉の乾燥は自然乾燥(天日乾燥)で行います。黄色種だけは釜で熱を加え人工乾燥する必要があります。古くは薪炊きで、その後灯油などで人工的に乾燥されました。つまり乾燥小屋で乾燥していた煙草はこの黄色種というわけです。黄色種はアメリカ バージニア州原産のもので通称「米葉(米国の葉)」と呼ばれていました。というわけで地域によっては「乾燥小屋」のことを「米葉小屋」と呼んでいたようです。「ベーハ小屋」の呼び方の由来です。
ちなみに地域によってその呼び方はいろいろのようで、香川県の西部では「カンソバ」と呼ばれていたようです。
建築家 秋山東一氏は「これらのベーハ小屋は、ある意味で近代産業遺構というべきものでありましょう。・・・中略・・・これらのアノニマスな施設が、讃岐においてバナキュラーなレベルにまで昇華されている........というべきなのかも知れません。」と解説している。
これらの建築群は讃岐の穏やかな田園風景と相まって「讃岐の原風景」とさえいえるような景観を醸し出しているのです。 |
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ベーハ小屋に想う |
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「あののぉ 2008 vol.8 <連載>森里海から」より抜粋 |
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讃岐の特徴的な風景というと何を思い浮かべますか?讃岐は特別特徴のない風景だと思われる方もいらっしゃるかも知れません。「灯台下暗し」で、地元でずっと暮らしていると地元の特徴的なことが案外見えにくくなったりするものです。私も県外の人から言われて初めて気が付くことが過去にいくつかありました。地形的なことで言いますと「山のかたち」と「瀬戸内海」のことです。讃岐の山は「おむすび山」とよばれる小さな妙に整った山が多く、平野部にいきなりこつ然と出てきます。しかもかなりの数で・・・。見慣れない人は不思議な山だとか日本むかしばなしのやまのようだとか表現されます。地元で見慣れていると何でもない風景が県外の人には奇異に映るのです。瀬戸内海もいわゆる一般的な「海」のイメージとはかけ離れているようで、波のない穏やかな水面はどうみても湖としか思えないと何人かから聞きました。もう一つ地形で特徴的なのは前回紹介した「ため池」でしょう。ため池密度日本一を誇る讃岐平野はこの「ため池」と「おむすび山」、そして周辺の田畑が独特の風景をつくっています。
この讃岐の風景を形成するひとつの要素になっているのが「ベーハ小屋」だと私は思います。
----中略----
このベーハ小屋、その気になって探してみると予想以上に讃岐平野各地に点在しています。綾川、まんのう地区、西讃では財田、大野原、高瀬地区に特に多いようです。今では乾燥場として使われているところはないようで、農機具置き場など倉庫として使われていたり、廃屋として放置されているものが多いようです。建物としては取り立てて特別なつくりをしている訳ではありませんが、その越屋根(煙抜きとして屋根の上部に付けられた小さな二重屋根)の形状や葉煙草乾燥のための機能からくる建物の高さがつくりだすプロポーション、土壁で覆われた大壁、乾燥状態や温度を確認するための小窓などの要素によって一種独特の形態をもつ個性的な小屋です。このベーハ小屋、讃岐地方特有のものということではなく、ある時期に全国的につくられたもののようですが、これほど多くが今も現存している地域はどうやら讃岐の地だけらしいのです。
崩れゆく土壁や木の風情は、役割を終えて朽ちていくものの美しささえ感じさせてくれます。バラック小屋ではありますが今も数多く残るこの小屋たちは讃岐の原風景とも言える景色をとどめると共に、現代の家づくりになにかしらメッセージを発信しているように思えてなりません。木、土、竹、瓦、石で作られたこの小屋は役割を終えると全てが土に還ります。今、まさに土に還りつつある讃岐の「ベーハ小屋」は私たちに何を訴えようとしているのでしょうか・・・・
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